2023/01/24/05. 勤怠管理の法律
就業規則と労働基準法・労働契約法 ~法令に基づいて徹底チェック!~
1.はじめに
皆さんは自分の会社の「就業規則」がどのようなものか確認したことがあるでしょうか?
就業規則には労働者が働くうえで重要なルールが記載されていますが、就業規則を確認する際には、労働基準法をはじめとした法令を遵守しているかという観点が重要になります。
この記事では労働基準法と労働契約法という、就業規則について大きく関係のある法律に記載されている、就業規則に関する決まりを解説していきます。
あなたの会社の就業規則が法令を遵守できているか、一緒に確認していきましょう。
2.就業規則とは?
就業規則に関する決まりを解説していく前に、そもそも就業規則とは一体何なのかを確認しましょう。
就業規則とは、始業・終業時刻や給与規定といった労働条件に加えて、職場全体の規律を定めたルールのことを指しています。
就業規則は法的な効力を持っています。労働者が就業規則に違反した場合に、懲戒処分などの制裁が下されることがありますが、就業規則は法的な効力を持っているので、その制裁は法的に有効となります。
使用者が適切な就業規則を定めることで労働時に起こるトラブルの解決がしやすくなり、労働者・使用者ともに安心して働くことのできる環境をつくることに繋がります。
逆に適切な就業規則を定めていないと、就業規則自体がトラブルのきっかけになってしまう可能性があるので注意が必要です。
就業規則と似ている言葉として、「社内規程」・「労働契約(雇用契約)」・「労働協約」などがあります。就業規則と混同してしまいがちですが、これらの言葉はそれぞれ異なる規則やルールのことを指しています。では、就業規則と一体どのような点が異なるのでしょうか。
- 社内規程
社内規程はあくまで使用者・会社の裁量で定めるものであり、就業規則と異なり法的拘束力がなく、労働者に周知する義務もありません。
ただし、就業規則に記載すべき内容が社内規程に記載されていた場合、その規程の名称が「社内規程」等であっても就業規則の一部として扱います。つまり就業規則かどうかは実質によって判断される、ということになるので注意しましょう。 - 労働契約(雇用契約)
労働契約は使用者と個人が結ぶものです。
就業規則は労働者全員に効力があるものですが、労働契約についてはあくまで契約を結んだ個人にしか効力がありません。 - 労働協約
労働協約は就業規則と異なり、労働組合と使用者の間で締結されたものであり、労働組合に加入していれば、組合員に自動的に適用されます。
就業規則と同じように複数の労働者に対して適用されるルールではありますが、就業規則よりも効力が強いものとなります。
3.労働基準法・労働契約法とは?
次に就業規則に大きく関わる法律である、労働基準法・労働契約法の内容を確認していきましょう。
労働基準法とはその名の通り、労働条件の最低基準を定めた法律です。使用者に対して立場が弱くなりがちな労働者の権利を守るために、最低限守らなければならない労働条件を定めています。
労働基準法について更に詳細な内容が知りたい場合には、『労働基準法が5分でわかる!かんたん解説記事 – 働き方改革関連法にも対応 –』もご覧ください。
労働契約法とは、こちらもその名の通り、使用者と労働者が結ぶ労働契約についてのルールを中心として定められた法律です。労働者の権利を守りつつ、労働者と使用者の関係をより安定させるために定められました。
4.就業規則を点検!
①労働基準法に反していないか
就業規則が法律を守らねばならない根拠
就業規則が法令を遵守しているかを確認する前に、就業規則が法令を守らなければならない根拠について先に解説していきます。
第九十二条
就業規則は、法令又は当該事業場について適用される労働協約に反してはならない。
2 行政官庁は、法令又は労働協約に牴触する就業規則の変更を命ずることができる。
労働基準法第92条では就業規則が労働協約・法令に違反していてはならないことが定められています。これが「就業規則が労働協約や法令に反してはならない」ことの根拠となります。
また労働基準法などの法令や労働協約に満たない就業規則は、行政官庁から変更命令が出されることがあります。
労働基準法第92条の中で、就業規則が労働協約や法令に反してはならない根拠が明確に定められているため、労働基準法をはじめとした法令を遵守した就業規則が必要となるのです。
ここからは就業規則が法令に違反していないかを確認するために、重要なポイントを各法律の条文を引用しながら確認していきましょう。
就業規則の作成義務
最初に就業規則の作成義務がいつ発生するかについて確認しましょう。
労働基準法第89条は、就業規則の作成義務についてのルールを定めています。
労働基準法第89条(一部)
第八十九条
常時十人以上の労働者を使用する使用者は、次に掲げる事項について就業規則を作成し、行政官庁に届け出なければならない。次に掲げる事項を変更した場合においても、同様とする。
常時十人以上の労働者が存在する場合には就業規則を作成する義務があります。
ここでいう「労働者」については雇用形態などは関係なく、使用者がどんな形態でもいいので労働者を十人以上雇っている場合には、就業規則を作成しなければなりません。
常時十人以上の労働者が存在するかは、事業所ごとに判断されるので、各支店等がある場合には、それらの支店の人数を合算した人数で判断されるわけではありません。
就業規則に記載する内容
就業規則に記載する内容についてのルールも、労働基準法第89条のなかで定められています。
労働基準法第89条(一部)
第八十九条
〔……〕
一 始業及び終業の時刻、休憩時間、休日、休暇並びに労働者を二組以上に分けて交替に就業させる場合においては就業時転換に関する事項
二 賃金(臨時の賃金等を除く。以下この号において同じ。)の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項
三 退職に関する事項(解雇の事由を含む。)
三の二 退職手当の定めをする場合においては、適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算及び支払の方法並びに退職手当の支払の時期に関する事項
四 臨時の賃金等(退職手当を除く。)及び最低賃金額の定めをする場合においては、これに関する事項
五 労働者に食費、作業用品その他の負担をさせる定めをする場合においては、これに関する事項
六 安全及び衛生に関する定めをする場合においては、これに関する事項
七 職業訓練に関する定めをする場合においては、これに関する事項
八 災害補償及び業務外の傷病扶助に関する定めをする場合においては、これに関する事項
九 表彰及び制裁の定めをする場合においては、その種類及び程度に関する事項
十 前各号に掲げるもののほか、当該事業場の労働者のすべてに適用される定めをする場合においては、これに関する事項
就業規則に記載する事項には、絶対的必要記載事項と相対的必要記載事項、任意的記載事項が存在します。
絶対的必要記載事項とは、職場の条件などに関係なく、必ず就業規則に記載しなければならない事柄のことを指しています。
以下が絶対的必要記載事項として、就業規則に必ず記載しなければならない内容です。
- 労働時間に関する事項(始業・終業時刻、休憩時間、休日などの取り決め)
- 賃金に関する事項(賃金の決定方法、賃金の計算方法、支払い方法)
- 退職に関する事項(退職、解雇・定年の事由)
相対的必要記載事項は、退職金の取り決めがある場合には、その取り決めについて記載しなければならない、というように規則を定める場合には、就業規則に記載しなければならない事柄のことを指します。
以下が相対的必要記載事項になります。
- 退職手当に関する事項(退職手当の対象者の範囲、計算方法、支給方法)
- 臨時の賃金(賞与など)や最低賃金に関する事項
- 食費や作業用品などの労働者の費用負担に関する事項
- 安全及び衛生に関する事項
- 職業訓練に関する事項
- 災害補償と業務外の傷病扶助に関する事項
- 社内の表彰及び制裁に関する事項
任意的記載事項は、全労働者に適用される事項がある場合に記載する事柄のことを指します。何を記載しなればならないかは法令で定まっておらず、各企業で任意に定めます。
セクハラやパワハラに該当する行為を禁止するなどの服務規律や、採用に関する事項などは、この任意的記載事項に分類されます。
また1ヶ月単位の変形労働時間制やフレックスタイム制は、就業規則に定めることで導入することが可能です。これらの記載も任意的記載事項として扱われることになります。
就業規則を作成・確認する際には、絶対的必要記載事項・相対的必要記載事項がきちんと記載されているか、また従業員全員に適用するルールがある場合には、任意的記載事項として記載されているかに注意しましょう。
就業規則の作成・変更時の手続き
次に就業規則を作成・変更する際に必要な手続きについてです。
労働基準法第90条では、就業規則を作成・変更する際に必要な手続きが記載されています。
第九十条
使用者は、就業規則の作成又は変更について、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者の意見を聴かなければならない。
2 使用者は、前条の規定により届出をなすについて、前項の意見を記した書面を添付しなければならない。
就業規則を作成・変更する場合には、労働者の過半数で組織する労働組合か労働者の過半数を代表する者の意見を聞く必要があります。
また、労働者代表の意見を書面にまとめ署名及び捺印したものを、就業規則に添付して労働基準監督署に届け出なければなりません。
各事業所ごとに届け出る義務があり、それぞれの事業所を管轄する労働基準監督署に就業規則と代表者の意見をまとめたものを届け出る必要があります。
就業規則が作成・変更された場合には、あくまで代表者の意見の聴取だけが必要であり、意見を受けて就業規則を加筆・修正する義務はないという点に注意しましょう。
減給についての取り決め
減給の制裁について取り決めをする場合には、どこまで減給してよいかを定めているのが労働基準法第91条です。
第九十一条
就業規則で、労働者に対して減給の制裁を定める場合においては、その減給は、一回の額が平均賃金の一日分の半額を超え、総額が一賃金支払期における賃金の総額の十分の一を超えてはならない。
減給などの制裁についての取り決めは、相対的必要記載事項ですので決まりを作る場合には必ず就業規則にその内容を記載する必要があります。
減給の制裁を定める場合、その減給額が平均賃金の一日分の半額を超えてはいけません。また一度の賃金の支払いの十分の一より多くの減額をしてはならないことが定められています。
例えば、月給が30万円の人に減給の制裁をする場合には、十分の一を超える3万円より総額の多い減給ができません。
就業規則の周知
就業規則は作成したら終わりではなく、使用者が労働者にその就業規則を周知しているかどうかも重要なポイントになります。
労働基準法第106条では、使用者には就業規則を労働者に周知する義務があることを定めています。
第百六条
使用者は、この法律及びこれに基づく命令の要旨、就業規則、第十八条第二項、第二十四条第一項ただし書、第三十二条の二第一項、第三十二条の三第一項、第三十二条の四第一項、第三十二条の五第一項、第三十四条第二項ただし書、第三十六条第一項、第三十七条第三項、第三十八条の二第二項、第三十八条の三第一項並びに第三十九条第四項、第六項及び第九項ただし書に規定する協定並びに第三十八条の四第一項及び同条第五項(第四十一条の二第三項において準用する場合を含む。)並びに第四十一条の二第一項に規定する決議を、常時各作業場の見やすい場所へ掲示し、又は備え付けること、書面を交付することその他の厚生労働省令で定める方法によつて、労働者に周知させなければならない。
就業規則は労働者が見やすい場所に掲示したり、書面を労働者に配るなどして、労働者が就業規則を自由に確認できる状態にしなければなりません。
最近だとパソコンなどを用いてデジタルデータ化し、従業員がいつでもアクセスできるようにしておくことも一般的になりました。
使用者が就業規則を労働者に周知することは非常に重要なことであり、労働者に就業規則を周知していない場合に裁判が行われ、使用者に賠償責任が発生したこともあります。
中部カラー事件(長野地判平成18年10月20日)と呼ばれる裁判では、就業規則に記載した退職金についての取り決めを、労働者の不利になるように変更した際に、その内容を使用者が労働者に周知していたかどうかが大きな争点となりました。
就業規則に記載する退職金についての取り決めを変更した際に、就業規則に記載してはいたものの、朝礼での発表をしただけで説明会などを行わなかったこと、退職金の具体的な計算方法についての記載がなかったことから、使用者に賠償責任が発生しました。
就業規則が作成・変更された際には、使用者が労働者にその内容を周知しているかを必ず意識するようにしましょう。
労働契約と就業規則の関係
ここまで労働基準法の条文を引用して、就業規則のポイントを見てきましたが、労働契約と就業規則の関係については労働契約法で定めていると、労働基準法第93条で触れられています。
第九十三条
労働契約と就業規則との関係については、労働契約法(平成十九年法律第百二十八号)第十二条の定めるところによる。
次章では、就業規則がこの労働契約法に反していないかを確認するポイントを見ていきましょう。
5.就業規則を点検!
②労働契約法に反していないか
前章にて、労働基準法第93条の中で労働契約法が出てきました。
労働契約法も就業規則にかかわる重要な法律であり、この章では労働契約法の就業規則に関係する部分を抜粋して解説していきます。
就業規則の変更について
基本的に就業規則は労働者の合意無しで、労働者の不利な条件になるように変更する事はできません。ただし一部の場合においては、就業規則を労働者の合意無しで変更することができます。労働契約法第9条・第10条では、その取り決めについて記載されています。
第九条
使用者は、労働者と合意することなく、就業規則を変更することにより、労働者の不利益に労働契約の内容である労働条件を変更することはできない。ただし、次条の場合は、この限りでない。
第十条
使用者が就業規則の変更により労働条件を変更する場合において、変更後の就業規則を労働者に周知させ、かつ、就業規則の変更が、労働者の受ける不利益の程度、労働条件の変更の必要性、変更後の就業規則の内容の相当性、労働組合等との交渉の状況その他の就業規則の変更に係る事情に照らして合理的なものであるときは、労働契約の内容である労働条件は、当該変更後の就業規則に定めるところによるものとする。ただし、労働契約において、労働者及び使用者が就業規則の変更によっては変更されない労働条件として合意していた部分については、第十二条に該当する場合を除き、この限りでない。
就業規則を変更する際、使用者が変更後の就業規則を労働者に周知し、その変更内容が合理的であると判断される場合には、労働者の合意無しで就業規則を変更することができます。
従業員が受ける不利益の程度や、本当に変更が必要なのかという変更の必要性などが判断材料として用いられ、企業ごとの状況によってケースバイケースで判断されることになります。
就業規則と労働契約の関係
労働基準法第93条にて、労働契約と労働基準法の関係についての言及がありましたが、労働契約法第7条・第12条では労働契約と就業規則の関係について記載されています。
第七条
労働者及び使用者が労働契約を締結する場合において、使用者が合理的な労働条件が定められている就業規則を労働者に周知させていた場合には、労働契約の内容は、その就業規則で定める労働条件によるものとする。ただし、労働契約において、労働者及び使用者が就業規則の内容と異なる労働条件を合意していた部分については、第十二条に該当する場合を除き、この限りでない。
第十二条
就業規則で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については、無効とする。この場合において、無効となった部分は、就業規則で定める基準による。
就業規則の基準に達しない労働契約はその部分については無効となりますが、労働契約の内容が就業規則よりも労働者にとって有利な場合には、労働契約の内容が労働者に適用されます。
例えば、入社時に時給1100円で契約し(労働契約)、就業規則では時給が1000円と決められていた場合には、労働者により有利な労働契約の内容が適用され、時給は1100円となります。
逆に、入社時に時給1000円で契約し(労働契約)、就業規則では時給が1100円と決められていた場合には、就業規則の基準に達していない労働契約が無効になり、時給は1100円となります。
就業規則と労働契約では、労働者にとって有利な内容が採用されるという関係になっていることは覚えておきましょう。
就業規則が法令・労働協約に違反していないか
労働基準法第92条の中で就業規則が法令や労働協約に違反してはならないことが定められていましたが、労働契約法第13条では、就業規則が法令や労働協約に反していた場合の扱いについて定めています。
第十三条
就業規則が法令又は労働協約に反する場合には、当該反する部分については、第七条、第十条及び前条の規定は、当該法令又は労働協約の適用を受ける労働者との間の労働契約については、適用しない。
各規則の効力をまとめると、
労働基準法をはじめとした各種法令>労働協約>就業規則
の順となります。
就業規則で定めた基準が、法令・労働協約に反する場合には、反する箇所が無効になります。
就業規則が無効になることがないように、法令や労働協約を遵守するように作成されているか、確認してみましょう。
就業規則が法令に違反していないかを確認するための重要なポイントの解説は以上になります。
ここまでかなりたくさんの条文が出てきましたが、就業規則を作成・見直ししたり、点検する際には、これらの法律に違反していないかをきちんと確認する必要があります。
6.まとめ
法令 | 条文 | 概要 | ポイント |
---|---|---|---|
労 働 基 準 法 |
第八十九条 | 作成義務 記載事項 |
|
第九十条 | 作成・変更の 手続き |
|
第九十一条 | 減給の制裁 |
|
第九十二条 | 労働協約・法 令の遵守義務 |
|
第百六条 | 労働者への 周知義務 |
|
労 働 契 約 法 |
第九条 | 就業規則の 変更内容 |
|
第十条 | 第七条 | 労働契約との関係 |
|
第十二条 | 第十三条 | 法令・労働協 約との関係 |
|
今回、就業規則に関連する労働基準法と労働契約法のポイントをリスト形式にしました。
繰り返しになりますが、就業規則を作成する際や、確認するときには労働基準法と労働契約法に反していないかをチェックする必要があります。
就業規則を作成する際には、上記のリストを確認しながら、就業規則が法令を守れているかを気にするようにしましょう。
また就業規則を作成しない方も、一度会社の就業規則がどのようになっているかを確かめてみることをおすすめします。