2021/09/16/05. 勤怠管理の法律
「法定外労働」「所定外労働」は何が違う?「時間外労働」との関係は?ややこしい言葉の違いを解説
1.はじめに
長く働いていても、残業の定義や計算方法は意外とよくわからないものです。
働き方改革への注目が集まり、これまでの働き方が見直されつつある今、残業についてきちんと押さえておきたいという方は多いのではないでしょうか。
実は、残業には「法定外労働」と「所定外労働」という二つの種類があるのです。
この区別は、残業代が正しく支払われているかを確認する上でも重要になってきます。
この記事では、残業についての基礎知識である、法定外労働と所定外労働の違いを解説します。
記事を読むことで、法定外労働や所定外労働とは何か、労働基準法にどういう規定があるのか、「時間外労働」とはどのような関係にあるのかがわかります。
2.法定外労働・所定外労働とは
まずはじめに、残業とは、定められた時間を超えて働くことだと言えます。
そして、「定められた時間」には「法定労働時間」を指す場合と「所定労働時間」を指す場合の二つがあり、それに応じて残業も二つの種類に分かれます。
法定外労働とは法定労働時間を超えた労働のことで、所定外労働とは所定労働時間を超えた労働のことです。
では、法定労働時間と所定労働時間は何が違うのでしょうか。
簡単に言ってしまえば、違いはその時間を定めているのが法律なのか、それとも企業なのかという点にあります。
- 法定労働時間:法律によって定められた労働時間
- 所定労働時間:それぞれの企業によって定められた労働時間
法定労働時間は、労働基準法によって定められています。
以下の条文にあるように、法定労働時間は原則として1⽇8時間・1週40時間以内です(変形労働時間制などの例外もあります)。
第三十二条
使用者は、労働者に、休憩時間を除き一週間について四十時間を超えて、労働させてはならない。
2 使用者は、一週間の各日については、労働者に、休憩時間を除き一日について八時間を超えて、労働させてはならない。
所定労働時間は、それぞれの企業が法定労働時間の範囲内で定めるものです。
労働契約で明示することが義務づけられており、就業規則や雇用契約書などの書類で確認できます。
このように定義が異なるため、企業によっては法定労働時間と所定労働時間が一致しないことがあります。
以下、そうした場合に法定外労働と所定外労働がどうなるのかを具体例で確認してみましょう。
ある企業の就業規則で、所定が次のように定められていたとします。
- 始業時刻 9:00
- 終業時刻 17:00
- 休憩 12:00~13:00
このとき、所定労働時間は、休憩時間を除いた7時間になります。
ある従業員が、朝9時から夜19時まで働いた日を考えてみます。
法定労働時間は1日8時間、所定労働時間は7時間ですので、法定外労働、所定外労働はそれぞれ以下のようになります。
- 法定外労働 18:00~19:00の1時間
- 所定外労働 17:00~19:00の2時間
上記の例のように、同じ「残業」でも、法定外労働と所定外労働のどちらであるかによって指す時間が異なる場合があります。
そのような場合には特に、どちらの残業を指しているのか区別することが重要になります。
3.残業に対する法律上の規定
労働基準法には、残業に対して下記のような規定があります。
- 36協定の締結についての規定
- 残業時間数の上限についての規定
- 賃金の割増率についての規定
こうした法律上の規定は、所定外労働ではなく法定外労働が対象となることに注意が必要です。以下、順に確認していきます。
36協定の締結についての規定
法定外労働をするには、あらかじめ「時間外・休⽇労働に関する協定」という労使協定を結んでいる必要があります。
この協定は、下記に示す労働基準法第三十六条で定められているため、「36協定」と呼ばれることがあります。
第三十六条
使用者は、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者との書面による協定をし、厚生労働省令で定めるところによりこれを行政官庁に届け出た場合においては、第三十二条から第三十二条の五まで若しくは第四十条の労働時間(以下この条において「労働時間」という。)又は前条の休日(以下この条において「休日」という。)に関する規定にかかわらず、その協定で定めるところによつて労働時間を延長し、又は休日に労働させることができる。
法定労働時間を超えて働かないのであれば、所定外労働をしていたとしてもこうした協定は必要ありません。
残業時間数の上限についての規定
36協定を結んでも、何時間でも残業して良いわけではありません。
原則として、法定外労働は月に45時間、年に360時間が上限となっています。
特別な場合でも、2019年の労働法改正で上限が定められました(詳しく知りたい方は、「いまさら聞けない!?働き方改革に伴う労働法改正内容の詳細解説」をお読みください)。
賃金の割増率についての規定
下記の条文にあるように、法定外労働には25%以上の賃金の割増が義務づけられています。
第三十七条
使用者が、第三十三条又は前条第一項の規定により労働時間を延長し、又は休日に労働させた場合においては、その時間又はその日の労働については、通常の労働時間又は労働日の賃金の計算額の二割五分以上五割以下の範囲内でそれぞれ政令で定める率以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。ただし、当該延長して労働させた時間が一箇月について六十時間を超えた場合においては、その超えた時間の労働については、通常の労働時間の賃金の計算額の五割以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。
労働基準法第三十七条第一項の時間外及び休日の割増賃金に係る率の最低限度を定める政令
労働基準法第三十七条第一項の政令で定める率は、同法第三十三条又は第三十六条第一項の規定により延長した労働時間の労働については二割五分とし、これらの規定により労働させた休日の労働については三割五分とする。
法定外労働でないならば、所定外労働であってもこうした規定には該当しません。
先の企業の例では、法定外労働になる18:00~19:00の労働には賃金の割増が必要ですが、そうでない17:00~18:00の労働には必要ないことになります。
つまり、同じ日の残業でも、ある時刻以降のものだけが割増対象だ、という場合がありえることになります。こうした場合にはとくに法定外労働と所定外労働の区別が重要になります。
※ただし、上記の割増率の規定はあくまで満たすべき義務の話です。
残業には一律で割増賃金を支払うという企業もあるため、残業代の正確な算定方法についてはそれぞれの企業の就業規則等を確認する必要があります。
残業時間に関する法律上の規定は、「残業時間、上限は月何時間?労働時間の法律上の規制をまとめて解説」にもまとめられています。併せてご参照ください。
4.時間外労働と法定外・所定外労働の関係は?
法定外労働や所定外労働ではなく、「時間外労働」という言葉が使われることもよくあります。
時間外労働と言われるとき、法定労働時間の外、つまり法定外労働を指す場合と、
所定外労働時間の外、つまり所定外労働を指す場合の両方があります。
たとえば、労働基準法の条文にも「時間外労働」という文言が出てきますが、これは前項で見たように法定外労働を指します。
いっぽう、それぞれの企業で言われる「時間外労働」は、たんに所定外労働の意味で使われることも多いです。
どちらを指すかは場合によって異なり、それぞれの文脈で判断するしかありません。
残業の時間数や賃金の割増が関わる場合にはとくに気をつける必要があります。
5.まとめ
以上、法定外労働と所定外労働の違いを解説しました。
残業には労働基準法によって定められた時間を超えて働くことを指す法定外労働と、企業ごとに定められた時間を超えて働くことを指す所定外労働がある、という区別を理解していただけたかと思います。
付録:法定外・所定外労働の関連用語
法定外労働や所定外労働に関連する用語を以下にまとめました。
似たような用語を混同しないよう注意しましょう。
所定労働時間 |
企業によって定められた労働時間を指します。 就業規則や雇用契約書などの書類で確認できます。 |
所定内労働時間 |
所定労働時間(企業が定める時間)の範囲内の勤務の時間数を指します。 |
所定外労働時間 |
所定労働時間(企業が定める時間)を超えて勤務した時間数を指します。 |
法定労働時間 |
労働基準法上、使用者が労働者に働かせてよい時間数です。 原則として1日に8時間以下、1週間に40時間以下です。 |
法定内労働時間 |
法定労働時間の範囲内の勤務の時間数を指します。 |
法定外労働時間 |
法定労働時間を超えて勤務した時間数を指します。 |
時間外労働時間 |
所定内労働時間を指す場合と、法定外労働時間を指す場合の両方があります。 |
なお、「残業」と「時間外労働」という語の違いについては、「「残業」と「時間外労働」って同じもの? 気をつけるべきポイントを解説」をご参照ください。
ちなみに、当社のiPad向け勤怠管理アプリ「タブレット タイムレコーダー」では、それぞれの企業のルールに合わせた残業の集計の設定が可能です。
下記の記事で残業の設定例をいくつか紹介しておりますので、ぜひご参照ください。
【集計ルール設定】残業を集計する
【集計ルール設定1:残業】8時間以上の勤務を自動で残業とする
【集計ルール設定2:残業】18時以降の勤務を自動で残業とする
関連記事
(最終更新:2024/11/13 関連記事の追加)