2019/04/24/05. 勤怠管理の法律
労働基準法が5分でわかる!かんたん解説記事 – 働き方改革関連法にも対応 –

2019年4月より、働き方改革関連法が順次施行されています。
労働基準法も改正の対象になっており、
- 時間外労働の上限規制
- 年次有給休暇の年5日取得義務
- フレックスタイム制の精算期間3ヶ月以内まで可能
などの内容が追加されました。
当ブログの記事にて労働基準法の全文を紹介していますが、法律の条文は表現が独特で、関心はあるけれど読むことに抵抗がある人も多いのではないでしょうか。
今回は労働基準法にどんなことが書かれているか、ポイントをわかりやすくまとめました。1章から13章+附則までを順に、改正後の内容も含めて簡単に要約しています。
この記事を通して「労働基準法とはこういうものだ」という大まかな理解の助けになれば幸いです。
また、一部の箇所では、厚生労働省による施行規則に詳細な内容が定められています。興味のある方は労働基準法施行規則の全文もご覧ください。
そもそも労働基準法とは?
労働基準法とは、労働条件の最低基準を定めた法律です。
労働者は、一般に使用者に対して立場が弱くなりがちです。
そうした労働者の権利を守るため、労働基準法では最低限守るべき条件が定められています。
労働基準法の対象となる「労働者」に、職業の種類や雇用形態の規定はありません。
正社員のみならず、パートやアルバイトの人も対象になります。
労働基準法は1947年に制定され、時代に合わせて何度か改正されています。
直近では、2018年に上述の働き方改革関連法が成立し、大きな改正が行われました。
この改正については詳細解説記事もありますので、よろしければご参照ください。
また、2020年の改正では、賃金債権の消滅時効期間や、法定三帳簿などの保存期間が延長されました。
章ごとの解説
第1章 総則
労働基準法の基本原則が以下のように規定されています。
- 労働条件の決定 → 労働者と使用者が、対等の立場で決定する
- 均等待遇 → 国籍、信条、社会的身分を理由に差別してはならない
- 男女同一賃金 → 性別によって賃金に差をつけてはならない
- 強制労働の禁止 → 暴行、脅迫、監禁などによって、意思に反して労働を強制してはならない
- 中間搾取の排除 → 他人の就業に介入して利益を得てはならない
- 公民権行使の補償 → 労働者が労働時間中に、選挙などの公民権の行使を申し出た場合において
は、拒んではならない
また、労働基準法内で利用する言葉が定義されています。
次のうち最初の3つは特に重要で、次の章から頻繁に登場する言葉なのでここで押さえておきましょう。
- 労働者(第9条)
- 事業に使用される者で、賃金を支払われる者
- 使用者(第10条)
- 事業主や事業の経営担当者その他その事業の労働者に関する事項について、事業主のために行為をするすべての者
→事業主・経営者だけでなく、例えば時間外労働を命じる権限を持っている上長が違法な残業を命じた場合、この上長も(残業との関係では)使用者にあたります。 - 賃金(第11条)
- 労働の対償として使用者が労働者に支払うもの
- 平均賃金(第12条第1項)
- 計算すべき事由の発生した日以前3ヶ月分の賃金の総額を、その期間の総日数で割った金額
(原文リンク:労働基準法第一章)
第2章 労働契約
労働契約に関して、以下のように規定されています。
- 契約期間を決める場合は原則3年以内で設定する(第14条第1項)
- 賃金、労働時間、その他の労働条件を明示する(第15条第1項)
- 病気などの休業期間とその後30日間は解雇してはならない(第19条第1項)
- 解雇をする場合、30日前に予告をしなければならない(第20条第1項)
予告をしない場合、30日分以上の平均賃金を支払わなければならない - 労働者が退職の場合において、請求があった場合は証明書を交付しなければならない(第22条第1項)
証明書には、使用期間、業務の種類、その事業における地位、賃金、退職の事由を記載する
なお、労働契約に関する規定については、労働契約法にも記述があります。
労働契約法は2013年に改正され、大きな話題となりました。
有期労働契約が繰り返し更新され、5年を超えた場合、無期労働契約に転換できるようになるというものです。
興味のある方は、労働基準法とあわせて、労働契約法も読んでみてください。
(原文リンク:労働基準法第二章)
第3章 賃金
賃金に関する規定となっており、賃金支払の5原則が述べられています。(第24条)
使用者は下記の原則に基づいて賃金を支払わなければいけません。
- 通貨(日本円)で支払う
- 直接支払う
- 全額を支払う
- 毎月1回以上支払う
- 一定の期日を定めて支払う
一般的に行われている「銀行口座への振込」ですが、実は「1.通貨で支払う」の原則からは外れています。
しかし、施行規則内で例外として認められており、労働者の同意を得た場合のみ、銀行振込が可能となっています。
第3章ではその他、非常時の期日前支払い(第25条)や休業手当(第26条)について述べられています。
なお、最低賃金についてはこの章では具体的には述べられておらず、最低賃金法に規定されています。
(原文リンク:労働基準法第三章)
第4章 労働時間、休憩、休日及び年次有給休暇
労働時間、休憩、休日、年次有給休暇に関して以下のように規定されています。
この章は、労働基準法の中でも勤怠管理と最も密接に関わっているため、勤怠管理を詳しく知りたい方は、この章についての理解を深めると良いと思います。
- 労働時間は1日8時間、1週40時間を超えてはならない(第32条)
ただし、一定の条件で柔軟化する制度として変形労働時間制、フレックスタイム制が存在している - みなしの労働時間制として、事業場外労働、裁量労働が認められている(第38条の2、第38条の3、第38条の4)
- 休憩時間は、労働時間が6時間超で45分、8時間超で60分を最低限確保する(第34条第1項)
- 休日について、1週間に1日(第35条第1項)、または4週間に4日を最低限確保する(第35条第2項)
- 労働時間、休日の規定を超えて労働する場合は書面による労使協定が必要となる
→有名な36協定(サブロク キョウテイ)のことで、第36条に規定があることに由来している
①36協定を締結した場合においても、原則として時間外時間(労働時間の規定を超えて労働した時間)が月間45時間、年間360時間を超えて労働させてはならない。(第36条第4項)
②臨時的に上記の時間を超えて労働が可能だが、その場合でも、その回数が年間6回を超えてはならず、時間外+休日労働が単月100時間、2~6ヶ月の平均80時間を超えてはならない。また、時間外が年間720時間を超えてはならない。(第36条第5項、第6項)
(下線部は2019年4月以降の内容、ただし中小企業は2020年4月から適用対象) - 時間外、休日に労働させた場合、25%~50%の間で政令で定める率以上の割増賃金を支払う必要がある(第37条第1項)(現在の政令*では、時間外:25%、休日:35%)
*「労働基準法第三十七条第一項の時間外及び休日の割増賃金に係る率の最低限度を定める政令」 - 時間外時間が月間60時間を超えた場合は50%以上の割増賃金を支払う必要がある(第37条第1項)
(中小企業は2023年4月から適用対象) - 深夜に労働させた場合、25%以上の割増賃金を支払う必要がある(第37条第4項)
- 雇入れの日から6か月継続勤務があり、勤務日の8割以上出勤した場合、10日以上の有給休暇を付与する。付与日数は勤続年数に応じて20日まで増加する。(第39条第1項、第2項)
(ただし、週の所定労働日数が5日より少なければ、付与日数は10日よりも少なくなることがある) - 10日以上の有休を付与した場合、そのうち5日は1年以内に必ず時季を定めて与えなければならない。(第39条第7項)
(下線部は2019年4月以降の内容)
休憩時間については、別に解説記事も用意しておりますので、ご参照ください。
なお、労働時間の管理方法については、厚生労働省から「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」という通達が出ています。詳しく知りたい方は、「ガイドライン」の解説記事をご参照ください。
(原文リンク:労働基準法第四章)
第5章 安全及び衛生
安全及び衛生の規定があった章ですが、現在は具体的な規定はなく、労働安全衛生法に規定されています。
労働安全衛生法についても、働き方改革関連法案による改正の対象です。
興味のある方は労働安全衛生法も読んでみてください。
(原文リンク:労働基準法第五章)
第6章 年少者
年少者の保護に関して以下のように規定されています。
なお、労働基準法における年少者とは、18歳未満の者のことです。
- 15歳となった次の3月31日まで労働させてはいけない(第56条第1項)
- 午後10時~午前5時までの間、労働させてはならない(第61条第1項)
- 就業規則や36協定によって定められる特例は認められず、原則の”1日8時間、週40時間”を超えて労働させてはならない(第60条第1項)
年少者とは別に20歳に満たない者を「未成年」、15歳に到達した日以後最初の3月31日を迎えるまでの者を「児童」と呼び、それぞれに対する保護規定があります。
(原文リンク:労働基準法第六章)
第6章の2 妊産婦等
女性の保護に関して、以下のように規定されています。
- 出産の6週前までの期間に休業を請求した場合と、出産後の8週間を経過するまでの期間は、労働させてはならない(第65条第1項、第2項)
- 生後一年に満たない新生児を育てる女性は1日2回、各30分の育児時間を請求できる(第67条第1項)
- 生理日の就業が困難な場合は休暇を取得できる(第68条)
(原文リンク:労働基準法第六章の二)
第7章 技能者の養成
技能者の養成に関して規定されています。
技能者とは専門的な能力を要する業務に携わる者のことですが、労働基準法の中では具体的に定義されていません。
この章では、技能の習得を理由に酷使するといった徒弟制度の悪習慣の是正について述べられていますが、具体的な罰則はなく、いわゆる訓示規定となっています。
その他、職業訓練に関する特例について述べられています。
(原文リンク:労働基準法第七章)
第8章 災害補償
労災発生時の補償に関して規定されています。
業務上の災害でケガや病気などが発生した場合は使用者には補償の責任がありますが、労災保険に加入している場合、その責任はありません。
ただし、休業補償の給付は4日目から行われるため、最初の3日分は使用者が支払わなければいけません。
(原文リンク:労働基準法第八章)
第9章 就業規則
就業規則に関して規定されています。
常時10人以上を使用する使用者は就業規則を作成し労働基準監督署に届ける必要があります。(第89条)
就業規則に記載する内容は大きく分けて以下の2点です。
- 絶対的必要記載事項(必ず記載しなければならない事項)
- 始業時刻や終業時刻、休憩時間や休日・休暇など労働条件に関する事項
- 賃金に関する事項
- 退職に関する事項
- 相対的必要記載事項(定めをする場合には記載しなければならない事項)
- 退職手当に関する事項
- 最低賃金に関する事項
- 安全衛生に関する事項 など
ただし、作成、届出の規定はありますが、変更については労働基準法では述べられておらず、労働契約法内で述べられています。
(原文リンク:労働基準法第九章)
第10章 寄宿舎
事業に付属する寄宿舎に関して規定されています。
ここで言う寄宿舎とは相当人数の労働者が寝食を共にしているような施設(例:長期間のトンネル工事における臨時の宿舎など)のことです。
福利厚生施設として存在する社宅や独身寮は、共同生活が必要とされておらず、独立した生活を営んでいるため、一般的には該当しません。
(原文リンク:労働基準法第十章)
第11章 監督機関
労働基準法に関わる監督機関について規定されています。
監督機関としては、労働基準主管局、都道府県労働局(例:東京都→東京労働局)、労働基準監督署が該当し、これらに配置された労働基準監督官は以下の権限を持ちます。
- 事業場の帳簿書類を確認したり、使用者、労働者に対して尋問できる
- 労働基準法に違反する罪に対しては、司法警察の権限を持つ
- 寄宿舎が安全及び衛生の事項に反し、労働者に危険がある場合においては、96条の3で定める行政官庁の権限を持ち、使用者に対して、停止や変更などを命じることができる
また労働者は、事業場内に法律に違反する事実があれば、監督機関への申告をすることができ、それによる労働者の不利益な取り扱いをしてはならないことについても述べられています。
(原文リンク:労働基準法第十一章)
第12章 雑則
雑則として様々な内容が規定されています。
労働者名簿、賃金台帳、出勤簿を合わせて法定三帳簿と呼ばれていますが、その保存義務についてはここに述べられています。(第109条)
詳しくは法定三帳簿の記入事項と保存期間で解説していますので、読んでみてください。
その他、賃金、災害補償や退職手当の請求権の時効についても述べられています。
(原文リンク:労働基準法第十二章)
第13章 罰則
労働基準法に違反した場合の罰則について規定されています。
労働基準法で「…してはならない」「…しなければならない」とされている規定のほとんどは、違反すると懲役、または罰金の対象になります。
条文の大半が「使用者は、…」「使用者が、…」で始まっていることからも分かるとおり、罰則の対象は原則として使用者です。
(原文リンク:労働基準法第十三章)
附則
附則とは、 法令において付随的な事項が規定された部分のことです。多くの場合は法令の施行期日や経過措置、関係法令の改廃等に関する事項が述べられています。
2019年4月の改正によって、「附則(平成三〇年七月六日法律第七一号)抄」の内容が追加されました。
4章の解説の中でも触れていますが、中小企業の経過措置に関して以下のように述べられています。
- 残業時間の上限に関する適用時期が2020年である
- これまで免除されていた月60時間を超える時間外労働に対する割り増し賃金率が2023年より適用対象となる
(原文リンク:労働基準法附則)
おわりに
今回は労働基準法の概要を全体的に解説しました。
労働基準法は、その他の労働関連の法律と密接に関わっています。
一部の労働関連法は、関連する各章において個別に取り上げていますが、改めて以下にまとめておきます。
- 労働契約法(全文)
- 労働安全衛生法(全文)
- 最低賃金法
- 育児介護休業法
- 男女雇用機会均等法
より詳しく知りたいと思った部分については、解説書を読んだり、上記の関連法も学んだりして理解を深めてみてはいかがでしょうか。
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(最終更新:2022/06/15)