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2023/08/22/

残業時間、上限は月何時間?労働時間の法律上の規制をまとめて解説

1 はじめに

働きすぎを防ぐために、残業時間についての規制が法律で定められています。

日本では長らく、長時間労働の常態化が問題視されてきました。
長時間労働は、労働生産性の低下や健康被害に繋がります。とくに過労死は社会的にも大きな注目を集めました。
改善を目指す取り組みがなされてきたなかで、近年「働き方改革」として大きな法改正が行われ、残業時間の上限が定められました。

残業の上限規制のほかにも、賃金の割増や本人への通知など、残業時間に応じた様々な規定があります。
まずはざっと眺めてみましょう。

  1. 残業あり →36協定の締結・届出、25%以上の割増賃金
  2. 残業時間が月45時間超 →36協定の特別条項の発動
  3. 残業時間が月60時間超 →50%以上の賃金割増
  4. 残業時間が月80時間超 →本人への通知と、場合によっては医師による面接指導
  5. 残業時間が月100時間 →それ以上働くことのできない上限

これらは労働基準法と労働安全衛生法で定められていますが、実は残業時間の定義が違ったり、1ヶ月の残業以外に複数の月で平均した時間数や年間の時間数の上限もあるなど、細かく見ていくとなかなか複雑です。
この記事では、そうしたややこしい規定を5つの「ライン」に整理して、具体的に、条文を引用しつつなるべくわかりやすく解説します。

2 第1のライン:法定労働時間と法定休日

労働基準法(労基法)という法律に、働く上で最低限守られなければならない基準が定められています。
第1のラインは、ここで定められている労働時間と休日についての規定です。

労働時間については、原則として1日に8時間以下、1週間に40時間以下でなければならないと決められています。
(いくつかの例外もあります。たとえば変形労働時間制やフレックス制では、一定期間内で累計した労働時間が枠内に収まっていれば、日に8時間・週に40時間を超えて働いていても問題がありません)

労働基準法第32条

第三十二条
使用者は、労働者に、休憩時間を除き一週間について四十時間を超えて、労働させてはならない。
2 使用者は、一週間の各日については、労働者に、休憩時間を除き一日について八時間を超えて、労働させてはならない。

労基法で定められたこの労働時間は、法定労働時間と呼ばれています。
以下では、法定労働時間を超えた労働を「時間外労働」と呼びます。

※会社の定めた勤務時間を超えた労働(所定外労働)でも、ここで言う「時間外労働」に含まれない場合があるのでご注意ください。詳しく知りたい方は、「「法定外労働」「所定外労働」は何が違う?「時間外労働」との関係は?ややこしい言葉の違いを解説」を参照。

また、休日については、1週間に1日または4週間に4日の休日を与えることが定められています。

労働基準法第35条

第三十五条
使用者は、労働者に対して、休憩時間を除き毎週少くとも一回の休日を与えなければならない。
2 前項の規定は、四週間を通じ四日以上の休日を与える使用者については適用しない。

労基法で定められたこの休日は、法定休日と呼ばれています。
以下では、法定休日の労働を「休日労働」と呼びます。

※こちらも、法定休日以外の休日(所定休日)の労働は含まれないことにご注意ください。詳しくは「休日とは?休暇との違いや、休日出勤の労働基準法上のルールも含めて解説」を参照。

第1のラインを超えて時間外労働や休日労働を行うには、労働者と使用者の間で労使協定を結び、労働基準監督署に届け出る必要があります。
この協定は、労基法第36条で定められていることから、36協定と呼ばれます。

労働基準法第36条第1項

第三十六条
使用者は、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者との書面による協定をし、厚生労働省令で定めるところによりこれを行政官庁に届け出た場合においては、第三十二条から第三十二条の五まで若しくは第四十条の労働時間(以下この条において「労働時間」という。)又は前条の休日(以下この条において「休日」という。)に関する規定にかかわらず、その協定で定めるところによつて労働時間を延長し、又は休日に労働させることができる。

加えて、通常の賃金に上乗せする割増賃金が必要になります。時間外労働には25%以上、休日労働には35%以上の手当が必要になります。
(深夜の労働の場合、これとは別に25%の賃金割増が必要になります)

労働基準法第37条第1項(一部)

第三十七条
使用者が、第三十三条又は前条第一項の規定により労働時間を延長し、又は休日に労働させた場合においては、その時間又はその日の労働については、通常の労働時間又は労働日の賃金の計算額の二割五分以上五割以下の範囲内でそれぞれ政令で定める率以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。

労働基準法第三十七条第一項の時間外及び休日の割増賃金に係る率の最低限度を定める政令(一部)

労働基準法第三十七条第一項の政令で定める率は、同法第三十三条又は第三十六条第一項の規定により延長した労働時間の労働については二割五分とし、これらの規定により労働させた休日の労働については三割五分とする。

3 第2のライン:月45時間または年360時間の残業

36協定を締結していれば時間外労働が可能ですが、その場合でも上限はあります。
原則として、1ヶ月間で45時間・1年間で360時間が上限とされています。これが第2のラインです。
時間数にカウントされるのは上述の時間外労働の時間のみで、休日労働の時間は含まれません。
特別な理由がない限り、この上限を超えて残業をさせることは罰則の対象となります。

労働基準法第36条第3項、第4項

3 前項第四号の労働時間を延長して労働させることができる時間は、当該事業場の業務量、時間外労働の動向その他の事情を考慮して通常予見される時間外労働の範囲内において、限度時間を超えない時間に限る。
4 前項の限度時間は、一箇月について四十五時間及び一年について三百六十時間(第三十二条の四第一項第二号の対象期間として三箇月を超える期間を定めて同条の規定により労働させる場合にあつては、一箇月について四十二時間及び一年について三百二十時間)とする。

この規定は、2019年に施行された働き方改革に伴う労基法の改正によって定められたものです。

ただし、特別な場合には、この第2のラインを超えた労働が可能になります。
36協定には、通常の一般条項とは別に特別条項と呼ばれるものを定めることができます。
特別条項付きの36協定を結んでいれば、繁忙期や緊急対応などの特別な事情がある場合に上限を拡大することができます。
(特別条項に基づいて上限を拡大することを、特別条項の「発動」と呼ぶことがあります)
特別条項には、特別な事情の内容や、特別条項発動時の上限時間などの決まりを記載することになっています。
なお、特別条項の発動はあくまで臨時的な場合のみとされており、最大でも年間6回までという制約があります。

労働基準法第36条第5項

5 第一項の協定においては、第二項各号に掲げるもののほか、当該事業場における通常予見することのできない業務量の大幅な増加等に伴い臨時的に第三項の限度時間を超えて労働させる必要がある場合において、一箇月について労働時間を延長して労働させ、及び休日において労働させることができる時間(第二項第四号に関して協定した時間を含め百時間未満の範囲内に限る。)並びに一年について労働時間を延長して労働させることができる時間(同号に関して協定した時間を含め七百二十時間を超えない範囲内に限る。)を定めることができる。この場合において、第一項の協定に、併せて第二項第二号の対象期間において労働時間を延長して労働させる時間が一箇月について四十五時間(第三十二条の四第一項第二号の対象期間として三箇月を超える期間を定めて同条の規定により労働させる場合にあつては、一箇月について四十二時間)を超えることができる月数(一年について六箇月以内に限る。)を定めなければならない。

4 第3のライン:月60時間の残業

特別条項の発動時、時間外労働が1ヶ月間で60時間を超えたとき、必要な賃金の割増率が変わります。
時間外労働のうち、月60時間を超えた部分については、25%以上ではなく50%以上の賃金の割増が必要になります。これが第3のラインです。

労働基準法第37条第1項(一部)

第三十七条
〔……〕ただし、当該延長して労働させた時間が一箇月について六十時間を超えた場合においては、その超えた時間の労働については、通常の労働時間の賃金の計算額の五割以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。

月60時間というのは、月に20日間働くとすると、日に3時間程度の残業に当たります。

この規定は、2010年に施行された労基法の改正によって定められたものです。
まず大企業のみに適用され、中小企業に対しては長らく猶予措置が取られていましたが、中小企業も2023年4月からは50%以上の賃金の割増が必要となっています。

5 第4のライン:月80時間の残業

残業が1ヶ月間で80時間を超えると、健康管理上の措置が必要になります。これが第4のラインです。
まず、超えた時間について事業者から従業員本人に通知しなければなりません。
さらに、疲労の蓄積が認められ本人からの申し出がある場合には、医師による面接指導が必要になります。

労働安全衛生法第66条の8第1項

第六十六条の八
事業者は、その労働時間の状況その他の事項が労働者の健康の保持を考慮して厚生労働省令で定める要件に該当する労働者(次条第一項に規定する者及び第六十六条の八の四第一項に規定する者を除く。以下この条において同じ。)に対し、厚生労働省令で定めるところにより、医師による面接指導(問診その他の方法により心身の状況を把握し、これに応じて面接により必要な指導を行うことをいう。以下同じ。)を行わなければならない。

労働安全衛生規則第52条の2第2項、第3項

第五十二条の二
法第六十六条の八第一項の厚生労働省令で定める要件は、休憩時間を除き一週間当たり四十時間を超えて労働させた場合におけるその超えた時間が一月当たり八十時間を超え、かつ、疲労の蓄積が認められる者であることとする。ただし、次項の期日前一月以内に法第六十六条の八第一項又は第六十六条の八の二第一項に規定する面接指導を受けた労働者その他これに類する労働者であつて法第六十六条の八第一項に規定する面接指導(以下この節において「法第六十六条の八の面接指導」という。)を受ける必要がないと医師が認めたものを除く。
2 前項の超えた時間の算定は、毎月一回以上、一定の期日を定めて行わなければならない。
3 事業者は、第一項の超えた時間の算定を行つたときは、速やかに、同項の超えた時間が一月当たり八十時間を超えた労働者に対し、当該労働者に係る当該超えた時間に関する情報を通知しなければならない。

月80時間は、平均して日に4時間程度の残業に当たります。
働き方改革に伴う労働法改正の一貫として、もともと月100時間超だったのが月80時間超にまで引き下げられました。

この規制は労基法ではなく労働安全衛生法に基づくものであり、他の規定と残業時間の考え方が違います。
カウントされるのは、1ヶ月以内の期間の総労働時間のうち、平均して1週あたり40時間を超える部分です。
そのため、労働時間が8時間を超える日があったり、40時間を超える週があっても、必ずしもカウントされるとは限りません。
時間外労働や休日労働の区別なく全体の労働時間数を取り出して、それを均したときに1週あたり何時間に当たるかで計算することになります。

6 第5のライン:(A)月100時間、(B)複数月平均80時間、(C)年720時間の残業

労基法には、特別条項発動時でもそれ以上働くことができない絶対的な上限が定められています。これが第5のラインです。
特別条項発動時の残業時間の上限は、(A)1ヶ月間で100時間未満、(B)2~6ヶ月間の平均が80時間以内、(C)1年間で720時間以内というものです。

労働基準法第36条第5項、第6項(一部)

5 第一項の協定においては、第二項各号に掲げるもののほか、当該事業場における通常予見することのできない業務量の大幅な増加等に伴い臨時的に第三項の限度時間を超えて労働させる必要がある場合において、一箇月について労働時間を延長して労働させ、及び休日において労働させることができる時間(第二項第四号に関して協定した時間を含め百時間未満の範囲内に限る。)並びに一年について労働時間を延長して労働させることができる時間(同号に関して協定した時間を含め七百二十時間を超えない範囲内に限る。)を定めることができる。〔……〕
6 使用者は、第一項の協定で定めるところによつて労働時間を延長して労働させ、又は休日において労働させる場合であつても、次の各号に掲げる時間について、当該各号に定める要件を満たすものとしなければならない。
〔……〕
二 一箇月について労働時間を延長して労働させ、及び休日において労働させた時間 百時間未満であること。
三 対象期間の初日から一箇月ごとに区分した各期間に当該各期間の直前の一箇月、二箇月、三箇月、四箇月及び五箇月の期間を加えたそれぞれの期間における労働時間を延長して労働させ、及び休日において労働させた時間の一箇月当たりの平均時間 八十時間を超えないこと。

(B)2~6ヶ月間の平均が80時間というのは、直近の2ヶ月平均・3ヶ月平均・4ヶ月平均・5ヶ月平均・6ヶ月平均のいずれも80時間を超えてはいけない、ということです。
たとえば、残業が今月86時間、前月70時間、前々月90時間の場合を考えると、

  • 2ヶ月平均は (86+70)/2=78時間
  • 3ヶ月平均は (86+70+90)/3=82時間

となります。この場合、3ヶ月平均が80時間を超えているので上限を超過していることになります。
こうした計算を2ヶ月平均~6ヶ月平均のすべてについて行い、いずれも80時間を超えていない必要がある、というのが(B)の基準です。

従来は特別条項付きの36協定を結べば際限なく残業が可能でしたが、働き方改革に伴う労働法改正の一貫として、こうした時間外労働の上限規制がなされるようになりました。
この改正の他の内容については、「いまさら聞けない!?働き方改革に伴う労働法改正内容の詳細解説」に紹介があります。

注意すべきことが2点あります。
第一に、(A)月100時間だけは1ヶ月に100時間「以下」ではなく「未満」です。月の残業時間が100時間ちょうどのとき、上限を超過していることになります。
第二に、(A)・(B)と(C)でカウントされる時間が異なります。(A)月100時間と、(B)複数月平均80時間には時間外労働と休日労働の両方がカウントされますが、(C)年720時間には時間外労働のみがカウントされます。

ただし、いくつかの事業には猶予や除外の措置があります。
建設事業や自動車運転の業務、医師、⿅児島県及び沖縄県における砂糖製造業、新技術・新商品等の研究開発業務といった事業がそれに当たります。

7 まとめ

第1のラインから第5のラインまで、それぞれの規定を見てきました。
上記の内容を表にまとめると、次のようになります。

番号 残業時間数 「残業」の定義 必要な対応
1 1分でも発生 時間外労働
(日に8h超または週に40h超の労働)
 
休日出勤
(法定休日の労働)
36協定の締結・届出
 
賃金割増
(時間外25%以上、休日出勤35%以上)
2 月45h超
年360h超
時間外労働 特別条項の発動
※年6回まで
3 月60h超 時間外労働 賃金割増
(50%以上)
4 月80h超 平均して週あたり40hを超える労働 本人への通知
 
医師による面接指導(疲労の蓄積があり、本人からの申し出がある場合)
5A 月100h以上 時間外労働+休日労働 (残業時間の上限)
5B 複数月平均80h超
5C 年720h超 時間外労働

もちろん、上記の規定さえ満たしていればいくら残業があっても良いというわけではなく、企業の側は長時間労働を減らす取り組みを行うのが望ましいです。企業には労働者が安全・健康を確保できるよう配慮する義務(安全配慮義務)があり、過度な残業が発生している場合には残業を必要最小限に留める措置を講じることが必要です。

労働安全衛生法第3条(一部)

第三条
事業者は、単にこの法律で定める労働災害の防止のための最低基準を守るだけでなく、快適な職場環境の実現と労働条件の改善を通じて職場における労働者の安全と健康を確保するようにしなければならない。

ちなみに、当社のiPad向け勤怠管理アプリ「タブレット タイムレコーダー」では、基本的な残業時間の集計が可能です。
具体的には、

  • 月の時間外労働の時間数
  • 月の休日労働の日数・時間数
  • 月60時間を超えた時間数など、月の残業時間のうち基準時間を超えた時間数

の集計に対応しています。
設定方法については、「【集計ルール設定】残業を集計する」、「【集計ルール設定】基準を超えた残業時間を集計する(月残業超過)」をご参照ください。
なお、集計された時間数は月度の途中でもリアルタイムに確認できるため、勤務状況を見て基準時間を超えないように仕事量を調整することが可能です。

より厳密に対応したい場合は、さらに高度な集計ができるシステムが必要です。
当社では、「キンタイミライ(旧バイバイ タイムカード)」というクラウド勤怠管理システムを提供しております。
キンタイミライでは、

  • 法定休日と所定休日を区別した管理
  • 表示する項目や警告ごとの残業の計算方法の変更
    (法定休日出勤を含める/含めないの区別や、期間内平均で週あたり40時間超の時間数の集計など)
  • 複数月の平均や年間の合計の計算
  • 年間の特別条項発動回数のカウント

といった、複雑な残業時間の管理が可能です。

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